「強いストレスを受けると、一夜にして黒髪が白髪になる」という話を聞いたことがあると思います。有名なエピソードでは、フランス国王ルイ16世の王妃マリー・アントワネットが、処刑されるショックで一夜にして白髪になったという話があります。
実際に黒髪だった人が一日で白髪頭になることはあるのでしょうか。結論からいうと、白髪になる仕組みから考えた場合、黒髪が一夜にして白髪に変わることはありません。そのため、マリー・アントワネットのエピソードは何かの誤解ではないかと考えられます。
このページでは、白髪になる仕組みについてお伝えし、ストレスの影響で黒髪が一夜にして白髪になることはあるのか検証していきます。
このページの目次
黒髪になる仕組み
そもそも多くの日本人の髪はなぜ黒髪なのか、髪が生まれる仕組みから考えてみます。
毛穴の底は毛細血管とつながっており、血液によって栄養素が運ばれてきます。運ばれてきた栄養素はそのまま毛穴の底にたくわええられます。たくわええられた場所を毛乳頭(もうにゅうとう)といいます。
毛乳頭に栄養素がたくわえ続けられると、毛乳頭の周りに髪の毛を作る細胞がたくさんできてきます。この細胞を毛母細胞(もうぼさいぼう)とよびます。このとき、メラノサイトという色素を作り出す細胞もできます。メラノサイトで作られる色素をメラニンといいます。
髪は、毛母細胞が分裂を繰りかえすことで作られます。このときできた髪の色は無色透明です。無色透明の髪に、メラノサイトで作られたメラニンが入り、黒髪が作られるのです。このメラニンという色素が、髪の色を決定するのです。
このメラニンには、2種類あります。1つはユーメラニンといい、黒~茶褐色の色素です。一方で赤褐色~黄色の色素をフェオメラニンとよびます。
ほとんどの人は両方のメラニンを持っており、双方の色素が混ざりあうことで色が決まります。ユーメラニンが色の濃淡を決定するのに対し、フェオメラニンは赤みや黄色みに反映されます。
たとえば、ユーメラニンが多い場合は黒色に近づきます。一方でフェオメラニンが多くなると、赤や黄色、オレンジ色などになります。多くの日本人の髪には、ユーメラニンが多量に含まれているため、黒髪の人が多いのです。
毛母細胞の分裂により髪の毛は休むことなく作り続けられます。当然メラニンも作られ続け、黒髪を形成していきます。そして、先に作られた髪はしだいに上へ押し出されていきます。まもなく上へ押し出された髪は頭皮面から外へ出て、目に見える黒髪となるのです。
また、メラニンが入ることで黒くなった髪は、自然に色素が抜けて黒色が落ちることはありません。そのため、薬品などを使ってメラニンを分解しない限り、すでに生えている黒髪が白髪になることはありません。
白髪になる仕組み
先ほど、「毛母細胞で作られた髪は無色透明である」と述べました。そして、「無色透明の髪に黒色色素のメラニンが入ることで黒髪になる」こともお伝えしました。
この観点から見ると、「白髪は白色のメラニンが髪に入ってのではないか」と思うかもしれません。しかし白髪は、白色のメラニンが入ったものではありません。白髪は、メラニンそのものが入らなかった髪の状態なのです。
つまり白髪は、無色透明なのです。無色透明の髪が白く見えるのは、光の乱反射によるものです。
以上のように、白髪になる仕組みは明確で、髪にメラニンが入らなかったためです。つまり、メラノサイトが何らかの原因で働きが弱くなったり、メラニンを作らなくなったりしたため、白髪になったのです。
白髪になる仕組みはあきらかですが、その原因はさまざまで複雑です。白髪になる原因として考えられるのは、老化や遺伝、ストレスや栄養不足などがあります。
そして多くの場合、1つの原因だけで白髪になるのではなく、いくつもの要因が合わさって白髪になっています。そのため、白髪を改善することは難しい場合が多いです。白髪の原因と対策はこちらをご覧ください。
白髪が生えるタイミング
白髪は、気がつくといつの間にか生えています。白髪は、突然あらわれるような気がします。しかし実際は、白髪も黒髪と同様に、うぶ毛で生えはじめて数カ月かけて1本の毛髪になります。
それでは、どのタイミングで黒髪が白髪にかわってしまうのでしょうか。それには、髪のサイクルが関係しています。髪は、成長期、退行期、休止期のサイクルを繰り返しています。この髪のサイクルを毛周期といいます。
成長期とは、毛穴の中で毛細血管から運ばれた栄養をもとに髪の毛を作っている時期です。毛母細胞が活発に分裂をくりかえし、髪をつくり続けている状態です。
髪はつくり続けられるため、はじめにできた髪は上へ押し出され、頭皮面から出て、目に見える髪となるのです。この成長期は、2~6年続きます。
退行期とは、毛母細胞の分裂活動が弱まる時期です。退行期の期間は14日前後といわれています。この退行期は、毛母細胞の分裂の衰退に伴い、メラノサイトがメラニン色素をつくり出す活動も弱めています。
続いて休止期ですが、期間はおよそ3ヶ月続きます。この間は髪をつくり出す毛母細胞の分裂が完全に止まります。同時に、メラニン色素も作られなくなります。
休止期に髪の成長は止まりますが、すぐに抜け落ちることはありません。休止期が終わり、再び成長期が始まり新しい髪が作られると、その新しい髪に押し出されるかたちで自然に抜け落ちていくのです。
髪にとって問題なのは、髪が自然に抜け落ちるとき、髪と一緒にメラノサイトもなくなってしまうことです。頭皮が健康状態であれば、毛母細胞が分裂し髪をつくるとき、同時にメラノサイトも再び構成されます。
しかし、何らかの原因でメラノサイトが作られなくなると、髪に色素が入らなくなるため、髪は白髪になります。毛周期から考えると、髪の生え変わりの時期が、黒髪と白髪の分かれ道であるといえます。
日頃から頭皮をマッサージして、常に毛細血管が栄養素を運びやすい状態をキープすることをお勧めします。
さらに、メラノサイトを活性化させるために必要な栄養素である、「ヨード」を多く含む食品を摂ることも良いでしょう。たとえば、海藻類や青魚類がそれにあたります。詳しくはこちらの「白髪の原因と対策」をご覧ください。
マリー・アントワネットのエピソードは誤解ではないか
これまで述べてきた通り、黒髪として生えた髪が白髪に変わることはありません。白髪になる仕組みから考えると、マリー・アントワネットの「一夜にして白髪になる」話は、一般庶民の誤解ではないかと考えられます。
マリー・アントワネットは処刑になる前に牢獄に入っていました。牢獄に入っている間に少しずつ白髪になり、処刑当日には白髪頭になっていたのではないでしょうか。
庶民は、牢獄中に徐々に白髪になっていくマリー・アントワネットの姿を見ていないと思われます。庶民はマリー・アントワネットが白髪になる前の身なりと、白髪頭になったあとの姿しか見ていないため、「一夜にして白髪になった」と勘違いしたのではないかと推測されます。
白髪は染めることで若々しく見られる
以上のように、白髪になる仕組みから考えると、黒髪が一夜にして白髪になることはありません。白髪は徐々に伸びてきます。そのため、白髪が短いときはあまり目立ちませんが、目についた頃には白髪の本数も多くなっています。
白髪が目立つようになっても、「たとえ白髪であっても、自然が一番である」と、白髪頭をそのままにしている人がいます。たしかに自然な状態は良いかもしれません。しかし白髪頭は、実年齢より老けて見られてしまいます。
周りの人から若々しく見られ、自分も気持ちよく過ごすことができるのであれば、白髪を染めることをお勧めします。